「ハッピーシュガーライフ」は、鍵空とみやきによって「月刊ガンガンジョーカー」で連載されていた完結済みの漫画作品です。
可愛らしいイラストとサイコホラーな内容のギャップが魅力で、連載終了間際にテレビアニメ化もされました。
女子高校生の主人公松坂さとう(まつざかさとう)が迷子の女子小学生神戸しお(こうべしお)を拾って半ば監禁する形で同棲状態になっているところから始まるという衝撃的な内容です。
様々な形の純愛を描きながら、それが互いに干渉して色々な事件に発展していくスリリングな物語も魅力です。
登場人物たちの抱える心の闇と歪んだ愛情
主人公の松坂さとうは、幼い頃から叔母のもとで育てられて来ましたが、その叔母は肉体関係でしか愛情を感じられないという非常に偏った価値観を持っていました。
相手の全てを受け入れるという叔母は、肉体関係を持つだけではなく、暴力すら喜んで受け止めていました。
一つ屋根の下でそれを見てきた松坂さとうは、その愛情表現をどこかでおかしいと思いつつ、高校生になった自身も男遊びをすることで寂しさを紛らわせていました。
しかし、神戸しおと出会い、彼女との平穏で幸せな生活を守りたいと思ったことで、初めて自身の中で本当に愛情と言える感情を実感します。
そして、神戸しおとの生活を維持するためならば、それが犯罪だろうと何をしても構わないのだという行き過ぎた思考を持つようになりました。
主人公たち2人を取り巻く他の登場人物達も、複雑な過去や特殊な愛情表現など、それぞれが問題を抱えている人物ばかりです。
例えば、松坂さとうのバイト先の同僚である三星太陽(みつぼしたいよう)は過去に年上の女性から性的暴力を受けたことにより、成人女性に対して恐怖心を抱いています。
その一方で神戸しおのような未熟な少女を「天使」だと表現し、彼女に優しくしてもらうことで自分の汚れた部分を浄化してもらえるのだという考えに囚われてしまいます。
こうした様々な愛憎と思惑が交錯し、そこへ失踪した神戸しおの家族も現れ、事態は複雑化していきます。
衝撃的な展開の連続で目が離せない!
読者ははじめ、松坂さとうが1人暮らしの家に神戸しおを連れ込んでこっそりと同棲生活をしているのではないかと感じます。
その中で同居しているはずなのになかなか登場しない叔母の存在や、神戸しおには隠された血塗れの部屋などが登場するため、松坂さとうは叔母を殺害して2人暮らしを成立させたのではないかと推測させます。
しかし物語が進んでいくと、実際には叔母がまだ生きているということが発覚します。
そして、松坂さとうが苦手意識を抱いている叔母のことを避けるように家出した先で出会った、同じアパートの一室に住む男性を勢いで殺害してしまい、そのまま住み着いているということがわかっていきます。
他にも、松坂さとうのことを純粋に親友として心配する同級生の飛騨 しょうこ(ひだ しょうこ)は、友人の奇妙な行動に疑問を抱いて相談に乗ろうとします。
しかし松坂さとうの壮絶な過去や歪んだ愛情の在り方に怯えてしまったことで、松坂さとうの信頼や期待を裏切ることになってしまいました。
最終的に神戸しおの存在を外部に漏らされたくないと考えた松坂さとうは、親友だったはずの飛騨しょうこを殺害してしまいます。
その後も神戸しおとの暮らしを続けるためならば手段を問わない松坂さとうは、飛騨しょうこの遺体を自分達が逃亡する際の偽装にするために利用までするのです。
強烈で印象に残るキャッチコピーの数々
「ハッピーシュガーライフ」の作品全体を表すキャッチコピーも「戦慄の純愛サイコホラー」という新しいジャンルを打ち出す印象的な言葉で表現されています。
他にも、コミックスの帯や裏表紙に大きく描かれた言葉はどれも強烈で印象的です。
例えば1巻の裏表紙の台詞は
「騙しても犯しても奪っても殺してもいいと思うの。」
5巻は
「この世にあるの? 傲慢じゃない恋なんて。」
6巻は
「一方的な愛を、愛という言葉で括るな。」
7巻は
「生きるために強制される愛。そんなのは、寂しすぎるよ。」
となっています。
強くて怖い言葉や言い回しを使いながらも、印象的でどこかはっとさせられるようなキャッチコピーになっているところが読者を引き込みます。
作品自体のジャンルとしては、一般的に言われる女性同士の恋愛模様を指す「百合」だったり、精神的に病んでしまうほどの愛情を抱えた「ヤンデレ」だったりという部分に分類される漫画作品ではありますが、それだけではない深みがあるのがこの作品の魅力です。
どのキャラクターの愛情表現も何か歪んでいる部分がありながらも、その根本的な部分では非常に純粋な感情だったりするというところがしっかりと描かれています。
だからこそ、読者は愛情とは何かという問いについて自然と考えさせられるのでしょう。
可愛らしいだけの恋愛漫画では物足りない人にこそ読んで欲しい一冊
一見して柔らかくて可愛らしいタッチで描かれるキャラクター達からは想像できないほどに壮絶な内容のギャップで引き込まれるこの作品。
軽くて明るいラブコメや、女の子たちが平和に仲良くしているだけの漫画作品ばかりでは物足りないと感じ始めた人には、非常に刺激的な読書体験になること間違いなしです。
サイコホラー作品とはいえ、感情の面や表情などで少しびっくりするような作画の部分もあるかもしれませんが、グロテスクな表現はほとんどないので、そういった描写が苦手な人でも読むことができます。
またテレビアニメの方でも、完結した漫画と同じように物語の最後までを1クールで楽しむことができます。
声優陣も花江夏樹や花澤香菜などの豪華なキャストが揃っております。
もし興味が湧いたなら、まずはじめの1話だけでも触れてみる価値があるでしょう。
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