最近彼女がいるらしいと噂されている大学生・野保康久(通称「のぼさん」)。
行動を観察していると、噂通り、彼女らしき人とちょくちょくメールでやり取り。
おまけに夕飯用の買い物まで頼まれています。おうちで夕飯を作って待っててくれる人がいるとは、羨ましい限りですね。
帰宅したのぼさんを迎えるのは、ご飯が出来上がるおいしそうな香り、おすそわけを持ってきたご近所さん。
勝手に火力最大になるガスコンロ、ひとりでに動くキッチンマット、宙に浮いたホワイトボード。……ん?
そう。
のぼさんの「カノジョ」とは、アパートに住み着いていた幽霊だったのです!
目次
「ウルトラ善人」のぼさんが織りなす、周囲とのズレが魅力
この漫画を語るには、まず主人公・のぼさんの人柄を紹介しないことには始まりません。
とにかく、いい人。ひたすらに、いい人。
冒頭の紹介通り、部屋に住み着いていた幽霊の「カノジョ」を一個人として受け入れているところから、すでに善人っぷりが止まりません。
いかなる状況、いかなる相手でも、他者の気持ちを思いやり尊重することを忘れない。その姿勢は、二十歳そこそこにして後光が差しかねないレベルです。
しかし当人には自覚が全くなく、汚れた一般市民はその徳の高さに平伏するばかり。
彼の周囲には、そのお人好しぶりを利用しようとする輩も数多くいるのですが、そんな面々さえ浄化してしまう勢いです。
この「天然煩悩ウオッシャー」が、作品の大きな魅力のひとつにつながっています。
善人の度が過ぎて元から周囲とズレているのぼさん。そこに「幽霊」というエッセンスが加わることで、予想もつかない誤解が生まれ、発展してゆきます。
すべてを知っている読者としては、誤解の発生経緯がわかるので、真実との齟齬の大きさ・ねじくれ具合に爆笑することでしょう。また、笑える時もあれば、もどかしい時もある。
作品全体に、こういった「ズレ」が、あちこちに転がっています。そしてほとんどが、のぼさんというキャラクターゆえに発生したもの。
タイトルに登場人物名が入っていることからわかる通り、主人公・のぼさんの個性は、この作品の根幹を成しているのです。
顔が見えないこと以外、ごく普通の恋愛漫画
タイトル『のぼさんとカノジョ?』の通り、この漫画はのぼさんと幽霊の「カノジョ」の関係が主体となっています。
「カノジョ」は霊的な存在のため、姿が見えません。のぼさんとはホワイトボードに字を書くことでやり取りをしています。
が、特異な点はそれだけで、2人の描写は基本的に「普通の恋人(中盤までは未満)」。
恋愛に外見は必須ではないということがよくわかる作品です。慣れてしまうと、2人の姿は同棲カップルにしか見えません。
些細なことで喧嘩したり仲直りしたり、風邪をひいて看病してもらったり、一緒に料理したり、留守にされると淋しかったり……。「恋愛あるある」見本市です。
また、前述の通り、恋人として結ばれるのは中盤なのですが、互いが惹かれていく過程が手に取るようにわかります。
のぼさんの性格に起因してか、結ばれるまでのスピードはややスロー。読んでいる側は「お前ら早くくっついちまえよ!」とヤキモキさせられるでしょう。
読者はいわば、両片思いカップルの横にいる親友ポジション。現実と違い、助力することができないので、じれったさは募る一方です。だからこそ、先が気になって気になって読み進めてしまう。
両想いになって以降は、「カノジョ」が幽霊であることから発生する諸問題が出てきます。
別れの危機に瀕するシーンが出てくるのですが、それがまた切ない。
特殊な状況が混じっているとはいえ、ここでもフォーカスされているのは「恋人との別離」です。2人はどうなってしまうんだ……と、今度はヤキモキではなくハラハラ。
この作品を一言で紹介するなら、間違いなくラブコメ。
ミステリー要素もあるけれど、メインとしては恋愛ジャンルといえるでしょう。
いい人にはズルい奴らが寄ってくる!? 個性あふれる仲間たち
先に少し述べましたが、この作品、のぼさんと「カノジョ」以外のキャラクターは総じてゲスい人間が多いです。
のぼさんと「カノジョ」が善人タイプなので、余計にそう見えるのかもしれませんが……。
代表例が、のぼさんの大学の友人・宮本。
授業のノートは常にのぼさんをあてにし、リア充を憎んでは絡み、巨乳の女の子大好きという、煩悩の塊のような若人です。
他のメンバーも、悪意こそなけれど己の欲望に忠実なタイプばかり。その際立ったキャラクターで、物語をひっかきまわします。ストーリーにおいては重要な役割を担っていますが、反面、読者から嫌われることも。
しかし読み進めるにつれ、彼らのイメージは一転していきます。そこが面白い。
最も好意の変遷が激しかったのは、恐らくのぼさんのご近所・金城さんでしょう。
とある件をきっかけにのぼさんに惚れ、半ストーカーのようなことをしていた彼女。押しの強い性格と「両想いカップルのお邪魔虫」というポジションから、好感を得にくいキャラでした。ですが、その印象は後半にガラリと変わっていきます。
彼女をはじめ、読者側に「何だこの人」と思われるキャラが変わっていく。その理由は、各自のストーリーがしっかり描写されているからです。
一見して好ましくない行動をしている人にも、それなりの理由、思いがある。そこを丁寧に描いているため、感情移入し、好きになることができるのです。
このように、主人公以外の登場人物に没入できるのも、この作品の長所。
筆者一押しのキャラは、のぼさんのお父さん。父としては多分ダメ親父の部類に入りますが、大切なことをきちんとわかっている、おちゃらけているようで深い、味のあるキャラです。
まとめ『のぼさんとカノジョ?』はこんな人に推奨!
繰り返しますが、『のぼさんとカノジョ?』は(ちょっと不思議な)ラブコメ。
基本的には「笑いが欲しい人」「恋愛モノが読みたい人」にオススメですね。
笑いに関しては特に自信をもって勧められる点。
後半になるとシリアスなシーンも多くなってくるのですが、ここはさすがに真面目なまま行くだろうという場面にも、容赦なくギャグが突っ込まれてきます。
泣いて笑ってまた泣いて、しかし最終的には笑顔になれる。少しネタバレになってしまいますが、ハッピーエンドで終わります。
そこを踏まえると、「スカッとしたい人」「明るい気分になりたい人」にも向いているといえるでしょう。
少々昔の漫画ですが、面白い本は年月が経っても色あせません。
また、すでに完結済み&全8巻という、読み切るのにちょうどいいサイズです。
上述したタイプに加え、「変わった恋愛モノが読みたい人」「最初から最後まで一気に読みたい人」。
ぜひ、お手に取ってみてください!
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