エンタメ作品にとって、読者、視聴者あるいは観客を惹きつける作品タイトルというのは非常に重要なものです。
そんな重要な役割を担っているタイトルですが、TVアニメでも人気の「その着せ替え人形は恋をする」のタイトルはどうでしょうか。
私は色んなサイトで、おススメとしてこの漫画が出てくるたびに「こんなタイトルの漫画、読むワケないでしょう…」と思って、スルーしていました。
いやだって、このタイトルからイメージされる漫画の内容って「可愛い人造人間の女の子が、人間界の常識を知らないゆえに冴えない男に恋をする」みたいな、気持ち悪い妄想がぎっしり詰まった漫画のような印象を受けませんか?
少なくとも私はそうでした。
読めば必然?でも損をしているんじゃないかという思いは消えず
おススメで表示されてもスルーする日が続いていましたが、ある時、ふと試し読みをしてみる気になりました。
作者の福田晋一さんの絵は、とてもキレイで、絵柄的には私の好みだったこともあります。そして読んで見てまず思ったのは、「あ〜、だからこのタイトルだったのね」ということです。
「その着せ替え人形は恋をする」、主人公は家業である雛人形の顔を作る職人「頭師」を目指して修行をしている男子高校生と、漫画、アニメやゲームが大好きでその登場人物の格好をしたいコスプレーヤーの女子高生の物語だったのです。
コスプレーヤーなのに不器用で衣装の自作ができない女の子と、雛人形師を目指しているため衣装作りはお手のものの男の子。
2人の出会わせ方にも必然性がありますし、物語作りが上手な作家さんだなぁと思います。
タイトルも、“雛人形”と“コスプレーヤー”という2つのキーワードのつながりから、“着せ替え人形”という言葉が出てきたのでしょう。実際に読んでみれば納得です。
そんな感じで、少しでも読めば腑に落ちるタイトルではあったのですが、やはり、タイトルで損をしているのではという思いは消えませんでした。
一体、作者はどうしてこんなタイトルにしたのだろうか・・・ということをどこか頭で考えながら、漫画を読み進めていました。
ある日、タイトルに込められた想いについてひらめいた
そんな感じで、タイトルに引っかかるものを感じながらも、物語も絵も好みのタイプなので、読み進めていた「その着せ替え人形は恋をする」ですが、ある時、「あ、このタイトルってこういう意味なのかも!」と思いつきました。
もちろん、それは私の思い込みかもしれませんが、自分なりに納得のいく答えだったのが、以下になります。
この漫画の女子側の主人公は海夢(まりん)ちゃんなのですが、陽キャでスクールカースト上位の女子のため、当初、男子側の主人公である新菜(わかな)君は自分とは相容れない人種だと思っていました。
また海夢ちゃんは人気の読者モデルでもあるのですが、読者モデルは、着ている洋服を可愛くキレイに見せることが仕事なので、これはまさに“着せ替え人形”です。
このことに気付いた時、このタイトルは、読モだから華やかな世界で生きる人とか、コスプレーヤーだからヲタクでキモいとか、表面的な記号で人を判断することの薄っぺらさを強烈に批判しているのかもしれないと感じました。
そう考えると、相当深いタイトルです。
そしてこれは蛇足になるかもしれませんが、作者の福田晋一さんは女性なんです。私はこの作家名からも、この漫画を「男性作家による気持ち悪い妄想満載なんでしょ」と決めつけていたんです。まさに表面的な記号で判断をしていたワケで、この点からも、漫画に込められたタイトルには挑戦的な意味合いがあるんじゃないかと思っています。
コスプレーヤーにも詳しくなれる
それにしても、漫画に詳しくない方達にとってのイメージがどうかは分かりませんが、私のような単なる漫画好きと、漫画好きが高じてコスプレーヤーに行き着くまでの間には、かなりのハードルがあります。
これは決して悪い意味ではなく、コスプレーヤーって、相当の熱量を必要とする趣味だと思うので、普通の人は、なかなかそこまでたどり着くことができないんです。
ですので、実際、コスプレーヤーがどのような感じで衣装をそろえていて、メークや撮影をどうしているかなどについては、単なる漫画好きであった私にとって、この漫画を読むまでは、知らないことばかりでした。
この漫画は、そのコスプレーヤーの人達の思いや、彼らのノウハウを知ることができるという点では、教養漫画的な側面からも楽しめるといえます。
女性が男装するための専用下着があることや、男性が女装するために骨格隠しとしてボンドまで使うことがあるとか、本当に「自分の好きなキャラクターになりたい」という想いの強さに圧倒されます。
またコスプレイベントも、かなりコスプレーヤーの方達を守るような形で運営されていることが丁寧に描写されていて、コミックマーケットもそうですが、一般の人達「ヲタク=社会性低め」というイメージと実態は全然かけ離れていることが分かります。
いつの時代もラブコメはまぶしい
タイトルで毛嫌いしていた「その着せ替え人形は恋をする」でしたが、思い切って読んでみて大正解でした。
キレイで、あまり嫌いな人はいないであろう絵柄ですし、内容は漫画の王道のラブコメ。
どんなに時代が変わっても、ボーイミーツガール、ガールミーツボーイ(もちろんボーイミーツボーイでも、ガールミーツガールでもいいです)の物語は、まぶしく、そして楽しく読むことができます。
実は正統派のラブコメだった「その着せ替え人形は恋をする」ですが、今度、どのように展開していくのか、続きがとても楽しみです。
今のところ、海夢ちゃんの想いは新菜君には届いていないのですが、このムズキュンする感じがこのまま続いてほしいような、そろそろ両思いになってほしいような、そんな気持ちでいます。
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