週刊少年マガジンに連載されている「それでも歩は寄せてくる」は人気の高い作品で2022年の秋にアニメ化もされます。
大ヒットとなった「からかい上手の高木さん」と同じ作者のラブコメですが、この作品が高い人気を得ているのは何故でしょうか? それには色々な理由があるように思われます。
他のラブコメとは一線を画す、と言っても良いくらいに高品質なものを持っている「それでも歩は寄せてくる」を分析してみたいと思います。
目次
キャラクター設定の巧みさが際立っている
剣道の達人だけど将棋は初心者。早寝早起きで運動神経抜群。そして何よりも真面目であり常に真剣。そして感情は表に出さないけれど強い気持ちと相手を思いやる優しさを持つ田中歩というキャラクターは、女性にとって「理想の男性像」かもしれません。
そして、ヒロインの八乙女うるしは「将棋が強い」事を除けば、どちらかというと女性ホルモン少な目の普通の女の子。ただ、うるしは凄く頭が良く「授業を聞いているだけ」で常に学年3位以内という優等生でもあります。
ただ、これまでラブレターをもらったこともなく、出したこともなく男子とデートしたことも一度もない、という「恋愛とは全く無縁」な生活を送っており、それに何の不満も疑問も抱かず、ひたすら「将棋がしたい!」としか考えていない女の子なのです。
現実でも、このように「何か1つの事に本気で夢中になれる人」は希少な存在であり、それは一種の才能でもあります。こういった人は自分の好きな物のため」なら、いかなるハードルをも飛び越えてくるのです。もちろん自分で考え工夫し失敗してもめげずに何度もリトライしていくからです。
一見、頼りなさそうで、ただの可愛い系女子に見える、うるしですが、実は「貴重な原石を内に秘めた存在」でもあるのです。
こういった原石を内に秘めている人は、いかなる困難にあっても決して諦めず前に進んでいくぞ、というオーラを放っているものですが、歩がうるしに一目ぼれしてしまったのも、きっと、うるしの放つオーラを感じ取ってしまったからでしょう。
それは「剣道の達人」である歩だからこそ感じ取れたものだったと思います。
つまり、この二人は「普通ではない」のです。共に「努力、根性、気合」という何等かの分野に秀でている人達が共通して備えている資質を二人とも持っているのです。通常のラブコメでは美男、美女が出て来ますが、それは「外見」です。
しかし、この二人は「内側に持っている物」が物凄い同士のラブコメ、というキャラクター設定なのです。
何故、将棋というアイテムが必要なのか
多くの読者は最初「ラブコメと将棋」という組み合わせに違和感を感じたと思います。
どう考えても普通のラブコメには相応しくないアイテムだからです。しかし「普通でない二人」が真剣に立ち向かうアイテムとしては将棋は、とても良いアイテムと言えるのです。事実、回が進んでいくごとに二人の将棋に対する真剣さはエスカレートしていきます。
もちろん経験と知識に優る、うるしの圧倒的勝利が続きますが、歩はもちろん諦めません。
途中から登場した歩の後輩である凛の特訓のおかげで歩は、どんどん進歩します。うるしが「いずれ追い越されてしまうかもしれない」と心配してしまうほどにです。
コミックには、その回での二人の差し手を詳細に記していますが、これは本物のプロ棋士の方が監修しているもので「まぎれもない本物」なのです。
見る人が見れば、きっと「こりゃ本物だわ」と感心されるでしょう。これも「二人が真剣に戦っている」ことを示すためなのです。
歩が「将棋で先輩に勝ったら告白する」と心に決めているからこそ生み出された真剣勝負であり「普通でない二人」がガチンコで勝負する、という緊迫感を生んでおり普通のラブコメでは、まず見ることのできない変わったシチュエーションを作り出しており、それがこの漫画の真骨頂とも言えるのです
マキさんとタケルは読者に良きアドバイスを与えてくれる存在
コミックの第8巻では意外な展開を迎えます。恋愛経験無し、というより眼中になかった、うるしは、ふとしたことがきっかけとなり「自分は歩が好きなんだ」ということに気が付いてしまうのです。
年頃の女子なら、当然、あって良い展開ですが、うるしのような「普通ではない人」にとっては、それは「初めて経験するもの」であり、一体、どうしたらよいか分からないという混乱を生みだしますが、幸い「女性ホルモンたっぷり」の親友であるマキさんが、うるしを助けてくれます。
このあたりは微笑ましく、かつ良い感じで「大人だなぁ」と思う部分です。
しかし普通のラブコメでは「大人だなぁ」などと感じさせるシーンは通常、出てきません。なぜなら登場人物は全員、同世代であり、そこに「大人」を感じさせる要素など発生しないからです。
この辺りのキャラクター設定の巧みさも他のラブコメとは一線を画すゆえんでしょう。登場回数は決して多くないマキさんですが、この物語では、とても重要な存在なのです。
また歩の幼馴染であるタケルと桜子の物語が時々、挿入されますが桜子が「好きってどういうことかよく分からない」と言います。これは多分、大部分の女子の本音でしょう。
美男子の歌手に夢中になるのは憧れであり、憧れと好きは違うものです。そして素直な性格のタケルは自分なりの答えを桜子に伝えます。実は、それは自分が桜子に大して抱いている気持ちを、そのまま言葉にしたものなのですが桜子は「分かった」と答えます。
これはタケルが大人であるからではなく、素直な性格だから出来たことです。
決して自分を誤魔化さないタケルの性格も「普通ではない」と言えるでしょう。この物語はこういった「普通ではない」人達が沢山出てきます、女性ならマキさん、男性ならタケルは読む人にとって、とても良きアドバイスを与えてくれる存在と言えるのです。
これからどうなっていくのだろうか? 予想が出来ないこの先の展開
コミックの第九巻で登場する「うるしのお父さん」は若い頃はプロを目指していたという強者であり、勝負を挑んだ歩は12枚落ちというハンデをもらいながら瞬殺されてしまいます。
そして長い間「お父さんは将棋が嫌いなんだ」と思い込んでいた、うるしは実はそうではなくお父さんは今でも将棋が大好きなんだ、という事実を知ります。そして第九巻の終わりに、うるしは「お父さん、将棋やらないか?」と言います。
お父さんは「少しやるか。4枚落ちでいいか?」と答えます。つまり、うるしは物語史上、最強である「お父さん」と将棋を差し始めます。従って、うるしは、ますます上達していくでしょう。歩が勝てる日は、どんどん遠のいていく訳です。
この厳しい状況で歩はどうするのか? 現時点では全く予想できません。歩のハードルはどんどん高くなっていくのです。しかし、それでも歩は寄せてくるでしょう。一体、どんなやり方で? それこそがこの漫画の醍醐味です。
いかに難しいハードルを超えていくか? という人生の難題を描いていると言っても良いのですが、そんな重い内容をこんなにコミカルに描くとはほとほと、感心するしかありません。
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