現在ジャンプ+で連載されているタイザン5の「タコピーの原罪」。
最新話が更新されるたびTwitterのトレンドを席巻するなど、爆発的な人気を見せている本作は、ハッピー星がハッピーを広めに来たタコ型宇宙人・タコピーと小学生のしずかちゃんの出会いから始まる絶望的な物語。
本作のキーパーソンとなるのは三人の小学生、しずかちゃん、まりなちゃん、東くん。彼女たちはいずれも家庭でタイプの異なる虐待を受けており、毒親の抑圧に悩まされています。
今回は「タコピーの原罪」に見る毒親と系譜と、そこから抜け出す方法を模索していきます。
目次
しずかちゃんはネグレクトを受けている!父は何故妻子を捨てて出て行ったのか
本作の主人公・しずかちゃんは生活保護を受けている貧困家庭の女の子。
母親は風俗嬢で家は荒れ放題、典型的な崩壊家庭といえます。しかも学校ではまりなちゃん主犯による壮絶ないじめに遭っており、どこにも居場所がありません。
そんなしずかちゃんの唯一の心の拠り所が飼い犬のチャッピー。数年前に出て行った父親がおいていった犬で、彼の存在だけがしずかちゃんの生きる意味でした。
しずかちゃんが受けている虐待はネグレクト。
母親は娘に無関心で既婚者の客と浮気しています。チャッピーがまりなちゃんを噛んで保健所送りになった時も、まるで興味のない言動をしています。
作中で彼女の顔や姿がハッキリ描写される事はありません。まりなちゃん、東くんの母親がちゃんと描かれているのに比べ印象が薄いです。
これは恐らくしずかちゃんの主観によるもの。しずかちゃん自身が母親に何の期待もしていない心情の表れです。
そしてしずかちゃんの父親の問題。
彼は東京のマンションで新しい妻子と幸せに暮らしており、はるばる訪ねてきたしずかちゃんが誰かと幼い娘に聞かれた際、「う〜んよくわかんないなァ……」と濁しています。保護者にありえない無責任な言動ですよね。
ですが元々しずかちゃんの方が愛人の娘だった、と考えれば腑に落ちます。即ち父親は風俗嬢と浮気しており、しずかちゃんができた後に元の家庭に帰った可能性です。
しずかちゃんの母親の言動から推測するに、彼女の浮気性に嫌気がさして出て行った説も否定はできませんが、どちらにせよしずかちゃんへの態度からは保身を第一に重んじる自己本位な本性が透けて見えます。
まりなちゃんは心理的・肉体的虐待を受けていた。娘に依存する毒母の束縛
しずかちゃんを執拗にいじめて追い詰めるまりなちゃん。
彼女のせいでしずかちゃんの学校生活は生き地獄と化します。のちにまりなちゃんの計略で唯一にして最大の心の支えであるチャッピーまでも奪われました。
まりなちゃんがしずかちゃんをこうも憎悪するのには理由があります。
まりなちゃんの父親はしずかちゃんの母親と浮気しているのです。そのせいで以前まで夫婦円満だったまりなちゃんちは破綻し、両親の喧嘩が絶えなくなりました。まりなちゃんは母親に愚痴と不満の捌け口にされています。
「まりなだけは裏切らないよね」と娘に依存する母親。
彼女はまりなちゃんを束縛し、娘が少しでも口ごたえしようものならヒステリックに手を上げます。典型的な毒親の反応です。
ですがまりなちゃんの母親も夫のモラハラの被害者と言えます。早い話、母と娘が共依存関係に陥っているのです。
家庭で何が起きているかは外から見えません。まりなちゃんちはしずかちゃんちと違い、少し前までは幸せでした。
だからこそ「パパがおかしくなったのはあんたの母親のせいだ」としずかちゃんを逆恨みし、いじめがエスカレートしていきます。
まりなちゃんもまた娘を分身と見なし洗脳する母親の犠牲者なのです。
東くんは教育虐待で屈折した!優秀な兄と比べられコンプレックスが肥大
クラスで孤立しているしずかちゃんに唯一手をさしのべたのが優等生の東くん。のちにまりなちゃんを殺害したしずかちゃんに知恵を授け、死体隠蔽に手を貸します。
彼の母親はエリート女医であり実家はクリニック。東くんは物心付く頃から優秀であれと課されてきました。母親は東くんを他人行儀に「君」と呼び、優秀な兄と比較して貶めます。
東くんはけっしてできない子ではありません、十分秀才の部類です。
彼の不幸の始まりは兄が「しなくてもできる」天才だった事。天才の長男を基準においた母親は、それに劣る秀才の次男を落ちこぼれと見なし、「なんでできないのかな」と嘆きます。
テストの点数が悪いからと手作りのホットケーキを食べさせず目の前で捨て、その事が残念だと零します。
東くんの家庭も傍目には何も問題ありません。生活水準は上の下、優秀な母と兄と弟がそろった他人が羨む家庭です。しかし東くんにとって、常に兄と比較され続ける家は地獄でした。
最愛の母はどんなに頑張っても自分を見てくれません。
そんな環境下で唯一自分を認めてくれたのがしずかちゃんでした。
誰かに必要とされる喜びは何にも増して代えがたいものです。しずかちゃんは東くんのコンプレックスを相殺してくれる存在だったのです。
タコピーは可哀想な子どもたちを救えるのか?
以上、「タコピーの原罪」にでてくる可哀想な小学生たちの家庭環境を考察しました。
タコピーの夢は「しずかちゃんを笑顔にすること」。
しかしその道のりは遠いです。そもそも根本的な原因である家庭環境が改善されない限り、本当の意味でしずかちゃんたちが幸せになることはありえません。故にそれぞれの親が改心するしかないのですが、現状では不可能です。
タコピーが出すご都合主義なマジカルアイテムは、子どもたちの現実逃避や絶望をブーストさせるだけで、けっして「ハッピー」には繋がりません。
これはリアルを生きる子どもたちの救済装置足り得ないフィクションの無力さを突き付ける、アンチテーゼではないでしょうか?
タコピーははたして皆を救えるのか、心して結末を見届けたいと思います。
コメントを残す