異世界転生マンガ『最果てのパラディン』はなぜ大人でもグッとくるのか?

今、すごい数の異世界ものの漫画が世に出ています。

よくあるのが、現代ではめっきり冴えない青年が異世界に転生すると、チート技を突然くり出せるようになり、あっという間に勇者になってしまうというものです。

そしてこの『最果てのパラディン』も、主人公は異世界に転生して結構強い存在となります。そして勇者にもなります。

ではなぜこのお話は、そんなたくさんの異世界転生ものがある中でも抜きんでて人気になり、アニメ化するまでになったのでしょうか?

少しその理由を考えてみたいと思います。

素晴らしく細部までこだわっている「設定」の魅力

このお話の人気の理由のひとつに、設定が素晴らしく細かいところまで考えられているということがあげられます。

例えば魔法ひとつ取っても、この『最果てのパラディン』の中の世界では、ゲームのようにレベルが上がって呪文を覚えて、MPが減って魔法が発動するというものではありません。

古代の言葉、「創造のことば」を使った「古代語魔法」が使われていて、一つ一つの呪文について古代文字であらわしています。

そしてよく魔法使いが行うような長い詠唱は全くありません。

例えば、ほのおの呪文の場合、

《燃える(フラムモー)》《火炎(イグニス)》

と、短い単語で発動させます。

それというのも、古代語魔法が強力なのもありますが、詠唱を失敗した時に自分へ跳ね返ってくるものが大きいことと、戦士など相手が物理攻撃をしてきた場合に間にあわないことをふまえ、短いものを使うよう魔法使いのガスが主人公であるウィルにそう伝授したのです。

熟練の魔法使いだからこそ、いざと言う時のヒューマンエラーを考え、効果の小さな呪文で最大限の成果をあげることが1番効果的ということを伝えています。

そしてしまいには、

「ーーーー金じゃ。」

と、ガスは言いきってしまいます。

危険を伴う呪文を使ってきた大魔法使いの行き着くところがカネとはおかしいですよね。

それだけリスクを伴うことは避けよといっていることがわかります。

もしも派手な漫画から見たら、短い細切れの呪文はすごく地味な絵面になってしまいます。

本来なら長い詠唱をして戦闘をすべて終えてしまうほどの爆発的な呪文の方がカッコイイですが、逆にこの現実的な設定がこのお話の魅力のひとつであり、面白さだとおもうのです。

神々の存在

“もうひとつの魅力はウィルを取り巻く“ 神”の設定の細かさです。

『最果てのパラディン』では、数多くの神が出てきます。

つまり日本の神や仏教、ギリシャ神話のような多神教となっていますが、キリスト教などのような絶対神と違い、多神教の神々は善も悪もいる上、人間くさい面を持っていて、この世界の神も同じように、ミスしたり怒ったり焦ったりするようです。

その神々を少し紹介しますと・・・・・

ウィルが守護神としている

  • 生々流転を司る灯火の神 グレイスフォール

敵であり、しかし時にはウィルを救う

  • 不死神 スタグネイト

この2人が印象深いですが、その他にも・・・

  • 正義と雷の神 ヴォールト
  • 炎の技術の神 ブレイズ
  • 次元神 ディアリグマ

・・・などなど様々な神が顕在します。

灯火の神グレイスフォールを守護神とするつもりではなかった?

ウィルは当初、灯火の神グレイスフォールを守護神とするつもりではありませんでした。

なぜならグレイスフォールは加護の多い神ではないからです。

しかし、灯火の神はウィルにとってなくてはならない存在になっていきます。

それはこの物語がはじまった理由でもあり、師のもとから旅立ってからも彼に多くの困難と恩寵を与えていくのです。

そしてその神々のおかげで、このお話はますます厚みを感じることができるといえます。

生まれ変わる=「輪廻」

最後に、一番作者が言いたいことであり、このお話の最大の魅力ではないかということをお伝えしたいと思います。

それは、“輪廻”です。

文字通り、生まれ変わって生きなおすこと。

主人公ウィルは、死んだように生きていた過去の自分から転生し、今世はそうならないために「きちんと生きて死のう」と、心に決めました。

最初に死んだ時に輪廻と灯火の神グレイスフォールに出会い、再び不死神との戦闘中にも生死の淵で再び灯火の神と出会い、守護神として契約を結んでいます。

その神の名のように、このお話は生まれ変わるということがとても重要な意味をもたらしています。

自分に恥じないように生き直す?

それも、ただ生まれ変わるのではなく、過去の自分を悔い、自分に恥じないように新たに生きなおすこと・・・。

そしてそれは、主人公ウィルだけでなく、のちに大切な友人となるメネルドールにも当てはまります。

生きる糧である自分自身の居場所や恩人を奪われ、自棄自棄になっていた自分を改め“きちんと生きて死ぬ”ことを決意して、生きたまま今までの自分から生まれ変わろうとします。

そのような苦悩から立ち上がっていく登場人物のストーリーを読むことで、私たち読者も心を動かされていくと思うのです。

そして、人は生きながらでも、そして何歳からでも過去の自分から生まれ変わろうとさえすれば、新しくはじめることができるんだと作者からのメッセージ性を感じずにはいられません。

「灯火の女神グレイスフィールが、あなたを愛し、あなたを照らし、あなたの道行きとともに在らんことを」

そんな風に小さな灯火は、生まれ変わった彼らの未来をいつまでも照らしていくのだと思います。

異世界なのにリアルさを感じる理由

引きこもりの生き方をしてきた時の感情の描写は、とてもリアルで作者がもしかしたらそれに近い経験をしてきたのかと錯覚するほどです。

しかしそのリアルさのおかげで、ウィルが転生したあとも俺TUEEEEという勇者感を感じず、自分の力で切り開いていく印象を受けることができます。

そのため、設定のリアルさと、感情のリアルさがこの物語の魅力であり、入り込める要因ではないかと思うのです。

そしてこのお話は、ご存知の方も多いかと思いますが“ 小説家になろう”から誕生しました。

そこから人気になり、漫画化し、昨年アニメ化にまでなったのです。

まるで転生したウィルのようだと思いませんか?

もし興味のある方は原作も読んでいただきたいです。漫画と違った魅力があって面白いと思います。

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