「幸せカナコの殺し屋生活」は学生時代のいじめやブラック企業での社会人生活を経て心をすり減らしてきたカナコが偶然殺し屋に転職したところ、天賦の才を発揮し、殺し屋として成長していく話です。
殺し屋という物騒な職につくも、今まで自分の感情を殺してきたカナコは、仕事を通じて悪を挫く達成感や一人の人間として認められる喜びを知り、ようやく自分を生かしていくのです。
基本コメディ色の強い漫画ですが、一人の弱気な女性が個を確立していく良質なストーリーです。
他を殺し己を確立していく主人公
殺し屋という物騒な職業の話でありながらコメディ色が強く、依頼の対象も悪人が多いためスッキリ読めるのが特徴ですが、個人的に一番の見どころは、一人の人間として成長し、個を確立していくカナコの姿です。
カナコは元々気弱で内気な性格に加え、学生時代にいじめを受けていたこと、ブラック企業でパワハラやセクハラを受けていたことから非常に自己肯定感が低い人でした。ですが、殺し屋としての天賦の才を発揮し、仕事ぶりや努力を認められることで今まで失ってきた自尊心を取り戻し、個を確立していくのです。
何人か悪人を殺していくうちに、自分のような弱い人間を救いたいという夢を持ったり、自分の知らない人々の感情を知ったりして、次第に殺し屋生活に幸せを感じるようになるのです。
後にカナコは初めての恋人ができ、「普通の人生」に憧れ出すのですが、恋人も殺し屋であることを打ち明けられ、さらにはお互い足を洗って結婚することを迫られます。「普通の人生」に憧れ出したはずのカナコですが、殺し屋としての生活が楽しかったこと、殺し屋としての自分であることが幸せであることを確信し、恋人をも始末するのでした。
結果的に悲恋にはなりましたが、ここでカナコは他者に寄りかかるのではなく、己の確立した人生を優先しており、とても成長を感じさせられます。男性に寄りかかるのではなく己の足で歩くことを決めるカナコの姿勢は、現代女性としても立派で美しいものです。
彼の死後、軽薄なナンパを受けたカナコが一瞬「こんな時彼がいれば」と頼りそうな考えが浮かびつつも自分の力で断る様は痛快でもあります。
さすがのラブコメ上手
作者は「徒然チルドレン」というラブコメ漫画を描いていた方です。そのため、ラブコメ展開がうまく、カナコもラブコメに巻き込まれます。
ラブコメは難しく、主人公がモテすぎるとありえなさや納得のいかなさで不快感を持たれやすいものです。しかしカナコは上述の通り不器用ながらも努力し、自分の足で歩き出す内面の美しい女性として描かれており、カナコの努力と成長を見ている読者からしても、彼女の姿勢が周りに好意的に見られることは不思議ではないため、ラブコメ展開も受け入れやすいのです。
また、作者がラブコメ上手だけあって、様々な人の感情の行き違いを巧みに描いており、伏線も上手く貼られていたりします。
例えばカナコが恋人を始末した後、会社の先輩・桜井に好きな人を殺したことがあるのか聞いた際、さぁなとはぐらかされるシーンがあります。また、5巻からの新キャラ・アドに初恋を訪ねると「前の同業者。殺されかけて別れた」と答えています。私含めここで気付く方もいたでしょうが、これは桜井とアドがお互いのことを考えているのだと思われます。
このように読みながらもしや?と思わせたり、読んだ後に成る程と思わせたりする展開が非常にうまく、何度も読み返したくなるのです。
キタキタキタキタキタキツネ
コメディ漫画でもあり、ギャグも多い漫画ですが、中でも語呂合わせの動物ネタは面白さも含蓄もある、お気に入りギャグです。
キター!というガッツポーズに合わせやすい「キタキタキタキタキタキツネ」、嘘と驚く際の「ウソウソウソウソコツメカワウソ」無理無理と慌てる際の「ムリムリムリムリカタツムリ」等、語呂がよく、気付くと思い出して呟いてしまうものばかりです。日常生活でも使いやすいものが多く、ファン同士ならリアルに使い合っても楽しめるかもしれません。
また、「デモゴルゴン」や「ヴェラキラプトル」「ソレノドン」等々、架空の伝説生物から古代生物まで、沢山の生き物が出てきます。知らない生き物がネタになっているとどんな生き物なのか調べたくなるので、地味に知識が増える漫画なのです。私もこれのおかげで知った動物が何匹もいるので、雑学好きとしては嬉しいところです。
生き物ネタの際にはちゃんとその生き物も枠の中に描かれているので、どんな生き物なのか見た目もわかります。また、その生き物もカナコと同調した動きを見せていたり、カナコに絡んでいたりする様が面白いし、可愛いのです。これは字だけでは伝わらないので、実際に見て欲しいところです。
幸せ哉この殺し屋生活
悩みながらも仕事を続けてきたカナコが幸せを確信した後の漫画内のテロップ「幸せ哉この殺し屋生活」は非常にうまいタイトル回収でした。
幸せかな?と悩んでいた様も、幸せ哉と確信した様も表しており、幸せカナコの殺し屋生活というタイトルが面白要素だけで無いことを何重にも含んでいたのです。読んだ時はついおおっ!と声が出てしまいました。
カナコの成長を描いている漫画なので、幸せ哉この殺し屋生活とカナコが感じることができたところを表現しているのはとても面白かったです。
最新刊では、交友関係が広がったカナコが自分の人生・恋愛・友情等、様々な中から大事なものを取捨選択していこうとする様が描かれており、めすます目が離せません。
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