漫画「GUNSLINGER GIRL(ガンスリンガーガール)」の少女たちの過去を考察【ネタバレ注意】

漫画「ガンスリンガーガール」は相田裕原作のアクション系漫画でありながら、義体化された少女たちの儚く悲しい人生を描いた感動の作品です。

辛い過去を持つ少女たちの悲しい人生の中でも、少女たちが幸せを見つけて懸命に生きていいく様子が描かれており、周囲の大人や少女の気持ちの移り変わりが丁寧に描写されている点も本作の魅力です。

そんな少女たちの過去を考察することで悲しさと引き換えに愛を手に入れた彼女たちを通じて作者が何を伝えたかったのかを考えていきます。

物語の背景

まず初めに、「ガンスリンガーガール」の舞台背景と少女たちに与えられた義体について考察します。

「ガンスリンガーガール」の舞台となっているのはイタリアです。

本作でのちに考察する少女たちの生き様に合わせてよく見てほしいのが、イタリアでの生活の様子や実際にあるイタリアの景色をそのまま漫画に写し取っているところです。

通常ならさらりと流されてしまいがちな、漫画の背景にオペラや観光名所、食生活と言った細かいところまでしっかりと描かれているのです。そのことがまたこの漫画に物語の深みを出している要素ではないかと思います。

義体の少女が担当官と呼ばれる大人と一緒にクリスマスの街中を歩き、クリスマスプレゼントの熊のぬいぐるみにローマ帝国の王の名前を付けたり、ローマ広場でジェラートを食べたり、オペラを見に行ったり、はたまたクラシックの名曲を歌いながら天体観測をしたり。歴史や現在の世情をさりげなく物語のスパイスとして盛り込んでいるのです。わかる人にはわかる、そんな面白さがこの漫画の1つの魅力ともいえるのではないでしょうか。

少女や担当官が使う「銃」にも設定がある?

もう一つ、マニアックなまでに書き込まれた銃火器も魅力です。

少女や担当官が使う銃についてもキャラクターそれぞれの個性に合わせて細かく設定されています。

少女たちは自分の手足のように銃を扱うことが仕事をする上での最低条件です。

そのために軍隊のような訓練をしたり、時には本物の軍隊と一緒に訓練をするのです。

実銃を幼い少女がプロとして完璧に取り扱う、そのアンバランスさも悲しさと儚さを強調する要素の1つなのではないでしょうか。

1期生と2期生の過去とは?

登場する少女は大きく公社設立時に義体化された1期生と1期生の改良を引き継いだ2期生に分けられます。

それぞれの少女ごとに義体となる前の過去が描かれ、義体となってからの幸せと対比がされています。

漫画を読み始めて一番最初に登場するのがヘンリエッタです。

そのかわいらしい見た目とは対象に、ヘンリエッタの過去はかなり悲惨で、一家惨殺強盗殺人事件の被害者で唯一生き残り、心に大きな傷を負った少女です。義体化するときに義体化する前の記憶がすべて消去されることから、義体化する少女として選ばれたと漫画では描かれています。

家族の愛を奪われたからこそ、ヘンリエッタは担当官からの愛情を受けて愛を知る、なんと儚く歯がゆいことでしょう。

活発な少女の「リコ」

次に物語で登場するのが、リコという活発な少女です。

義体化する前は全身麻痺のベッドから起き上がることすらできない重症患者でした。

半ば公社に売り渡されるような形で家族の元を離れ義体化し、自由に動く体を手に入れるのです。

リコにとっては自由に動く体があることが何よりの幸せで、公社の仕事で辛くても、担当官に叱られても、それは自由に動く体を維持するために必要なこととして消化してしまうのです。

そんなリコが物語が進むにつれて、担当官との絆を意識したり、担当官がリコを仕事道具ではなく一人の人間として接していくようになる変化を見ていくのがリコの人生を感じる上での一番の魅力と言えます。

長物の銃を良く取り扱っているのがトリエラで、トリエラの義体化前の背景は児童ポルノで体を痛めつけられた被害者です。

トリエラはヒルシャーに惹かれ、義体化の条件付けと愛情がわからないと言っているシーンが印象的で、のちにその気持ちが愛情だと自覚し、この人と生きて死のうと決意するシーンは涙なしでは読むことができません。

1期生最初の殉職者「アンジェリカ」

物語の中盤で1期生最初の殉職者となるのがアンジェリカです。1期生の中でも初期に義体化されたアンジェリカはその分寿命が短く、徐々に命の灯が消えていく様が事細かに描かれているキャラクターです。

アンジェリカの過去は愛をなくした父親に殺されそうになって公社に来た結果、公社の人間からたくさんの愛情を注がれるといった対比がまた切なさを感じさせます。

パスタの物語や義体化する前の愛犬ペロとの再会も合わせてアンジェリカの人生を感じ取ると、その気持ちもより一層高まることと思います。

2期生と1期生の橋渡し的な役割?

1期生クラエスの過去については物語の最後まで明確に語られることがありませんでした。

1期生の中で唯一前線に出て戦うことなく、殉職した担当官のラバロの記憶を失いつつもその言いつけを守り、義体の実験開発だけに従事する特異な少女です。

元は読書家という過去くらいしか明かされていないこともその特異性をさらに強調しているのではないでしょうか。

クラエスの物語でのポジションとしてはもう一つ、2期生と1期生の橋渡し的な役割もあるように思えます。

2期生のペトルーシュカと会話をしたり、一緒に花壇を作ったりと、比較的自由に生きている2期生の不満やストレスを受け止めている存在でもあるところが彼女に物語の中で与えられた重要な立ち位置なのではないかと思います。

2期生の中で特に取り上げられているのがペトルーシュカです。

担当官に対して愛情を直球で伝える彼女は元は天才的なバレリーナでした。骨肉腫に罹り、踊りを封じられたペトルーシュカは義体化することでコンプレックスであった低い身長を克服し、自由に踊れる長い手足を手に入れるのです。

自分の過去の記憶を開放した唯一の義体であり、クラエスのピアノ演奏に合わせて過去に身長のせいで踊ることができなかったバレエの演目を踊りビデオ撮影するシーンと、それに見とれる担当官の図が愛を感じる以上に切なさを感じます。

ペトルーシュカは大人びた見た目から、担当官と公式に恋仲になった唯一の義体で、物語の終わりに公社が解散してから担当官と短い余生を送ったと短い説明が出ますが、その一文でこちらが救われた気持ちになれるのは何度読んでも不思議な感覚です。

公社の終結と最後に…

公社の勢力戦である最後の戦いの後、公社はほぼ解散状態になります。

原作では義体の開発部門だけを残してとありますが、ここに残っている義体も、一期生最後のクラエスと二期生の少数だけです。

もう戦うこともなく、船の上で静かな生活を送るというところにクラエスの今までの生き方が見事にマッチしているのです。

そこにクラエスを一期生最後の生き残りとして戦いに参加させなかった作者の深い意図を感じることができ、感慨深いものがあります。

ほんとのラストはもう一つ物語がありますが、漫画「ガンスリンガーガール」はお伝えしてきた通り、様々な大人の思惑が交錯する中で懸命に与えられた命を生きて、限られた幸せを目一杯受け入れた少女たちの物語です。アクション好きの人も、銃火器に興味がある人も、もう読んだ人も、これから読もうと思っている人、まだ読んでいない人も様々な人に胸を張っておすすめできる漫画です。漫画の巻数は全部で15巻と決して多くはありません。アニメ好きな方にはアニメもあります。ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

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