ペンギンが好きな方なら、一度はこう考えたことがあるのではないでしょうか。
「ペンギン飼ってみたい……」
水族館に行けば見られるけれど、もっと間近で、例えば犬や猫みたいな感覚で接してみたい。でも飼えるようなペンギンは滅多にいないから、想像して楽しむしかないよなあ……。
そんな想像を大いに助けてくれるのが『エンペラーといっしょ』(mato)。
「ゆる楽しい」のキャッチコピー通り、ペンギンとのまったり平和な日々を楽しめる作品です。
(以下の文章にはネタバレを多少含みます)
目次
描かれるのは、ペンギンのいる「日常」
タイトル『エンペラーといっしょ』の通り、作中に出てくるのはペンギンの最大種・コウテイペンギンのエンペラー。
初回、主人公の女子高生・香帆の家の冷蔵庫に詰まっていたという、なかなか衝撃的な登場を果たします。
ジャンルが違えば「この件がすべての始まりだった……」とばかりにSF超大作に発展していくところですが、本作は「ゆる楽しい動物漫画」。
香帆はごく普通にエンペラーを受け入れ、家族もそれに倣い、非日常な日常がスタートします。
登場の仕方を始め、エンペラーには謎が多々あります。
まず、南極に住む生き物のはずなのに、日本でも平然としていられる時点でおかしい。
続いて、エンペラーが出現して以降、香帆の家の冷凍庫には「餌にご利用ください」と言わんばかりに魚の塊が出てくるように。
ペンギンってトイレトレーニングとかはできるの? エンペラーはなぜか最初から、人間と同じくトイレで用を足しています。本当になぜだ。
……と、挙げていくとツッコミが間に合いませんが、この作品はそれらに着目するより、「ペンギンのいる日常」を満喫する方がお得といえます。
現実ではまず不可能であろう、コウテイペンギンとの同居。もしそれができたらどういう感じなんだろう? 『エンペラーといっしょ』は、でき得る限りでその疑問に応えてくれます。
ミステリーな部分もあれど、基本的には本物のペンギンの生態がきちんと描かれています。「普通の家にいたら」の(ある程度)忠実なシミュレーション。
餌やりの仕方は? 水浴びとかは? 鳥類だけど羽は生え変わったりするの? 他にどんな習性がある? など、非常に身近な「ペットあるある」が満載です。
こういう生活になるのか〜と、ペンギンをよりリアルに感じ、愛着倍増。
また、大型ペンギンならではの願望も、作中の登場人物たちが叶えてくれています。
ズバリ、抱き着いてみたい。抱き心地がすごくよさそう。
本作ではそれらのシーンが多々あるばかりか、「〇〇部分は割と硬い」などの具体的な感想まで出てきます。
羨ましいと同時に、「もしペンギンが飼えるような生き物だったら」の妄想が大変膨らみます。
冒頭に挙げたような願望を一度でも持ったことがあるなら、香帆の生活を楽しく生温く見守ることができるのではないでしょうか。
「作中の登場人物を通してペンギンを実際に飼った気分になれる」これが本作の醍醐味です。
可愛い&ミステリアス。人を虜にするエンペラーの魅力!
様々なことを置いておいて、エンペラーはまず可愛い。ペンギン好きにはたまりません。
「もてもてもて」という効果音がふさわしい、どこか覚束ない歩き方。その他、ペンギンの動作を緻密に再現した本作は、どのコマを見ても「KAWAII」が止まりません。
歩くだけでも可愛い。微動だにしなくても可愛い。首を振るだけでも可愛い。
香帆をはじめとする家族の後ろについてきたり、もたれかかってくる行動などは、恐らくペンギンが好きかどうかを問わず激萌えポイント。されてみたい!
こうしたわかりやすい可愛らしさの他に、エンペラーは「無表情・不思議キャラ」ならではの可愛さの持ち主です。
コウテイペンギンは構造上、目がどこかわかりづらく、表情が読みづらい部類に入ります。作中では鳴くこともほとんどありません。
しかしその分、行動が全てを語る。喜怒哀楽や人物の好悪は、アクションではっきりとわかります。
この「無表情だけど感情豊か」な仕草が、ツボにハマる方も多いのではないでしょうか。
エンペラーはこの「無表情」にプラスして、前述したようなワンダーな要素もあるため、「何を考えているのかわからず、次に何をするのか予想もつかない」というキャラに仕上がっています。
こうなるともう、一挙一動から目が離せません。人は何か謎があると、それを解明したくなるもの。
ついでに言うなら性別も不明です。よりいっそう、考えが推測しづらい。
この「可愛い+謎」という二本立ての魅力が、作中のキャラおよび読者を惹きつけてやまないのです。
日常の中に入り込んだ「非日常ないきもの」が作るギャップ
『エンペラーといっしょ』では、特別な出来事は起こらず、作中の登場人物も至って平凡です。
しかし、何の変哲もない日常でも、あまり身近ではない生き物「ペンギン」がいるだけで、とたんに新鮮味を帯びます。
その様々なギャップが、本作の肝のひとつです。
フローリングを歩くペンギン、風呂場でシャワーを浴びるペンギン、部屋に佇むペンギン……。
見慣れた光景のはずなのに、エンペラーがいるだけで、非常にシュールな絵面になります。
また、本作は全4巻ですが、ちょうど春夏秋冬を一巡します。夏には海へ、秋はキャンプ、冬は雪遊び。
どれも季節のありふれたワンシーンですが、そこにペンギンが同伴している構図は何とも言えない味わいがあります。あり得なさ過ぎて面白い。
そして、あり得ない中にも、水中では泳ぎが早い・雪が大好きなどの、ペンギンならではのネタはきっちりと活かされており、その適当具合もなぜかハマるのです。
こうした点の他に、認識の違いや時間差が生み出すギャップもポイント。
香帆を筆頭に、登場する人間キャラたちは割と短期間でエンペラーの存在を受け入れてしまうのですが、初めは当然驚きます。まずは彼らのツッコミに大いに同調・共感することになるでしょう。
しかし読み進めていくと、やはりキャラたち同様に慣れてしまい、不思議を不思議と感じなくなってゆく。その状態で、中盤に登場するキャラたちがエンペラーに驚く様を見ることになります。
第一に感じるのは、彼らより一歩リードしているという奇妙な優越感。
続いて「普通あり得ないよな」と、一般認識と、謎生物にすっかり順応してしまった己との差に、ある種の感慨を覚えることでしょう。
こういった意味でのギャップも、本作の面白さです。
【まとめ】コウテイペンギンと一緒に暮らしたい、その夢叶えます
ペンギンというと南極に住む生き物というイメージがありますが、実は極地に住んでいるペンギンは限られており、フンボルトペンギンなど日本でも飼育可能な種もあります。
しかし、ペットとしてはやはりハードルが高めですし、コウテイペンギンはほぼ不可能と言っていいでしょう。
本作は、その「元々飼いにくいペンギンの中でもさらに飼いづらい、というより無理」なコウテイペンギンの疑似飼育体験ができます。
一部ファンタジーを交えつつとはいえ、詳しく記載されたコウテイペンギンの習性その他。水族館に行かなければ一生知らないようなデータもあります。
これらレア情報の学習と、子細に描かれた「生の触れ合い」。
「ペンギンとの他愛もない生活」本作はその妄想補完計画の一助となるでしょう。
豪華なことにフルカラーですので、魅力をあますことなく感じ取れます。
もしかしたら来るかもしれない、実際に共に暮らせる未来まで、しばし夢の肥やしにしてみてはいかがでしょうか。
ペンギンが好きな方だけではなく、ほのぼの・のんびりな漫画を求める方にも。
最初から最後まで、ひたすらに「ゆる楽しい」日々が待っています!
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