令和4年4月9日からアニメがスタートした人気作品『SPY×FAMILY』(遠藤達哉著)。「少年ジャンプ+」にて連載中のホームコメディです。
凄腕スパイ・黄昏(たそがれ)は、任務のために「家族」を作れと命じられます。しかし、娘・アーニャは超能力者、妻・ヨルは暗殺者!3人は正体を隠したまま、ひとつ屋根の下で暮らすことに。
この奇妙な組み合わせがもたらす騒動が、作品の醍醐味となっています。主要キャラの設定だけでも既にワクワクが漂ってきますが、人気の理由はそれだけにあらず。
多くの読者を惹き込む魅力を、3段階でご紹介します!
(単行本4巻までのネタバレを含みます)
目次
ステップ1 正義は勝つ! 堅実・王道的な面白さ
本作は「謎解き」が少ない内容となっています。
読者が登場キャラすべてを俯瞰する構成になっていること、アーニャが周囲の本音を超能力で読み取ってしまうことが、その大きな理由でしょう。
しかし、それだけに「王道」をきっちりと腹に据え、そこで勝負しています。すなわち、勧善懲悪。
メインキャラである黄昏・アーニャ・ヨルの3人は、それぞれ裏の顔はあれど、基本的に善人です。各自の目的は、よりよい国・世界を作ること。「正義の味方」なのです。
そんな彼らが、ばったばったと「悪」を倒し、事件を解決する姿はまさに痛快。時代劇ならば暴れん坊将軍や水戸黄門といったところでしょうか。
作品を読んだ第一印象は「スカッとする」につきます。現実では、ここまでキレイに善と悪が分かれていることはありません。
人も物事も複雑にもつれ合い、誰かが喜べばその裏で誰かが泣く。そんな現実があるからこそ、フィクションの世界でぐらい、単純な「正義の勝利」を見たい・読みたい。
『SPY×FAMILY』は、そんな読者の願いを叶えてくれる内容となっています。ミステリー色はないけれど、その分、肩の力を抜いて読める。悪は必ず成敗される。優しい人、いい人は必ず助かる。
人が「おはなし」に求める期待を、この作品は決して裏切りません。大きなどんでん返しも少ないので、ともすれば地味といえますが、地味=堅実ということです。
(なお、絵柄も万人に好まれるタイプのため、そちらの意味でも手堅い作品といえます)
まず、この安心感が、読者が作品に惹かれる第一段階といえるでしょう。
ステップ2 「人はみな 誰にも見せぬ自分を持っている」(第1話冒頭より)
気軽・気楽に読める安心感に続いて、本作第2の魅力は「表と裏のギャップ」。
キャラ全員が己の正体を隠しているので当たり前ですが、彼らが口に出す言葉とモノローグには大きな隔たりがあります。
誰しもそういう部分はあるでしょうが、彼らは抱えている秘密が秘密なだけに、スケールが大きい。読者は、心が読めるアーニャと同じ視点でその差を目の当たりにし、爆笑することになるでしょう。
さらに付け加えて愉快なのが、類は友を呼ぶばりに「ワケアリさん」が集ってくる点。「スパイ」「超能力者」「暗殺者」この3つだけでもお腹いっぱいなのに、本作ではさらに追加注文がなされています。
追加その1は、ヨルの弟・ユーリ。2巻から本格登場する彼は、親に代わって自分を育ててくれたヨルを深く慕う、外務省のエリートです。
しかし、その裏の顔は、スパイ狩りや市民の監視を行う秘密警察!
さらなるプラスは4巻。後に一家の飼い犬となる大型犬・ボンドが登場するのですが、彼は軍事研究の結果生まれた「予知能力犬」!
……もはや「ワケアリ」のフルコース、あるいは満漢全席です。しかも、ストーリーが続いている以上、また追加される可能性もあります。
このメンツが随所で(表向き)和やかな会話をするシーンは必見。加えて、ヨル&ユーリ姉弟は、裏の職業がなくとも、ややズレている性格です。
そんな彼らの、コミュニケーションの表と裏は、カオス。腹筋を全力で壊しにかかってきます。
本音と建て前、素顔と仮面。読者はこれらを両方把握することで、おかしさと共に、キャラたちへのシンパシーを感じていくでしょう。
ステップ3 愛着が湧いたからこそ気になる。彼らの過去とこれからは?
ステップ1、2と順調に好感度を上げてくる本作品。
痛快ストーリーに惹き込まれ、キャラたちの表裏に爆笑し、続いて気になるのは主人公たち「そのもの」ではないでしょうか。
漫画にしろ現実にしろ、好きになった人のことは、もっと知りたくなるもの。ところがこの作品、メイン3名の詳細な背景はほとんど描かれずに来ているのです。
黄昏はどういう経緯でスパイに? アーニャはどこで生まれた? ヨルはなぜ暗殺者に?
ちらほらと子供時代の切れ端が出ることはあるのですが、完全なエピソードとして説明されたことはまだありません(※単行本9巻現在)。
彼ら3名の過去を知らなくとも、本作は十分に楽しめます。けれど、もしそこが明かされたらもっと面白い。
本作の数少ない「謎」要素とも言えますが、謎解きというより「好きなキャラへの興味」が大きいですね。
そして、気になるのは過去だけではなく未来も。国家レベルの重大事が起きた場合、東西それぞれの国のために暗躍している黄昏とヨルは、確実に関わることになるでしょう。
両者は争うことになってしまうのか? また、アーニャはどうなるのか?仕事上の立場だけではなく、感情面でも大問題です。
かりそめの両親を本当の父母のように慕っているアーニャ、互いへの信頼と尊敬を深めつつある黄昏とヨル。「偽装家族」の彼らは、黄昏の任務完了後、どのような結末を迎えるのでしょうか。
ストーリーを好きになれれば、当然、キャラクターも好きになる。
読者はいつの間にか、主人公たちの過去と未来に思いを馳せ、話が動くごとに一喜一憂しているでしょう。
まとめ 『SPY×FAMILY』は今後も期待大!
以上3ステップで紹介しましたが、物語はまだ中盤。
黄昏の本来の任務である「要人との接触および調査」は、単行本9巻現在でも、少し前進した程度です。
この任務を軸に置き、その他さまざまな出来事を交えてストーリーが進んでいるので、エンディングはかなり先かと。
しかし、ダラダラしているといった印象はなく、適切な速度での進行と感じられます。むしろ、まだいっぱい読める! という喜びが大きい。
ステップ2で述べたように登場人物も増え、物語はいい意味で複雑になってきています。絡み合う人間関係と利害関係が、新しい味をもたらしてくれている。
しかし、ベースにある痛快さ・単純明快さは失われていません。これからもそこは変わらないでしょう。
シンプルでありながら、読者を飽きさせない仕組みが凝らされた『SPY×FAMILY』。これからも着実に人気を獲得していく、期待の持てる漫画です!
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