難病・潰瘍性大腸炎の闘病記を描いた人気エッセイ漫画『腸よ鼻よ』(島袋全優)。
最近では、安倍元総理が同病気の再発を理由に辞任しており、その関連で知った方も多いのではないでしょうか。
闘病エッセイと聞くと、なんだか辛そう&重そう、あるいは涙涙の感動物語! というイメージがありますが、この漫画は「ギャグ」です。
読んで得られるものは、まず「笑い」。これがヒット要因の1つ。
本記事では、人気の理由をさらに踏み込んで考察してみました!
目次
巧みな起承転結、キレのある言葉選び。4コマの要がハイレベル
本作は基本的に4コマ形式で話が進んでいきます。
この4コマが非常に完成度の高い「起承転結」となっており、最後のコマで毎度、安定したオチを見せてくれます。その度に読者は笑ったりツッコんだり。
1Pにつき4コマ1回=1話につき10数回の笑いが詰まっているため、ページ数の割に読みごたえがあります。また、1話ごとの大筋こそあるものの、会話や出来事としては、4コマごとに区切りがつくことが大半。
よって1Pだけ切り取っても完結している為、パラパラと気軽に読んでも楽しめます。
「確実に笑える」「肩の力を抜いて読める」この確かさとお手軽感が、好評の第一理由なのは間違いないでしょう。続いて外せないのが、言葉のチョイスの的確さ。
ボケにツッコミ・比喩その他、絵で表現するのが漫画とはいえ、セリフも欠かせない要素の1つ。
この作品はそれらが逐一適切で、特にツッコミに関するものは、同じく適切なフォントと相まって毎度爆笑の渦に引きずり込んでくれます。
実体験とはいえ、実際のセリフをそのまま載せただけではエンタメとして成立しません。
4コマという限られたフィールドの中で、わかりやすく簡潔に、かつ笑いを誘う・共鳴できるセリフをひねり出す。本作はこの大事な作業がきちんと行われています。
以上の点にデフォルメなどの描写力が加わった結果、この作品は、まず「4コマ」として優れています。
シンプルに、秀でた作品であるがゆえに人気を博しているのです。
最新作から往年の名作まで。豊富・適材適所なパロディネタ
本作には、数多くのパロディやオマージュが出てきます。
種類はアニメ・漫画・ゲームと多岐にわたり、作者がサブカルチャーに造詣が深いことが読み取れます。
あまりにワイドに登場するため「なぜ作者のトシでその作品を知っているんだ」と驚かされることも。この範囲の広さのおかげで、年齢を問わず楽しめる漫画になっています。
パロディというのは、ともすれば「パクリ」「パロディ元の人気に乗っかっている」という見方をされかねません。
しかし本作については、そういった受け止め方をされることは少ないでしょう。その理由は、使いどころの上手さにあります。
どのネタにおいても「わかりやすく伝えるため&面白く見せるための最適な表現」がパロディ・オマージュだったんだな、と頷ける。
これは基盤となる話自体がしっかりしていることに加え、元ネタを正確に捉える力が必要になってきます。
どちらが欠けても、読者から笑いは獲得できません。表現したい事柄に、元ネタがピタリと一致しているからこそウケるのです。
上記を物語っているのが、「元ネタを知らなくてもフツーに面白い」という事実。
もちろん知っていればさらに面白いのですが、知らなくとも笑えます。面白さを元ネタに頼っていない何よりの証拠でしょう。パロディはあくまで「装飾」。
正しいパロディは、先述したようなマイナスイメージを与えず、代わりに一段階上の笑いと共感を提供するのです。
また、作者自身がパロディ元の作品を好きなんだな、という点も伝わってきます。
好意はそのままリスペクトにも通じる。元作品に悪印象を抱くような描き方は決してされていません。
この的確なパロディ化と、元作品への尊敬を感じられる点が、多くの読者から愛される所以、その一部かもしれません。
体験がレア、それを前向き消化できる作者もレア
本作は、もはや「壮絶」としか言いようがない闘病生活を、作者の手腕で「ありのままに記しながらも笑える」内容に仕上げた漫画です。
作者が潰瘍性大腸炎を患ったのは19歳の時。病気とは縁遠い年代での発症に続き、その後も呪われているかのごとくトラブルが続きます。
激しい腹痛・下痢など潰瘍性大腸炎そのものの症状に加え、数十回にわたる入院、毎度の絶食治療、薬の副作用、体力低下、なかなか良くならない不安と焦りetc……。
病気に絞ってもここまであるのに、漫画家業においても、決して順風満帆ではありません。
起こったことを淡々と記載するだけでも、特異な闘病記、自伝として出版できたのではないでしょうか。作者はそれぐらい希少で濃い、そして過酷な体験をしています。
しかし、繰り返しますが、本作は「辛い・重い」作品ではありません。ひたすらにギャグに徹しています。
作者がこれだけヘビーな経験をギャグに落とし込めるのは、漫画家としての技量、そしてスーパーポジティブな性格ゆえにでしょう。
読んでいて浮かび上がるのは、作者の前向き・明るい・強靭なメンタル。
これらは意識して描かれているようには見えません。それこそ「赤裸々につづった結果、作者のキャラクターが自然と滲み出ている」状態なのです。
だからこそ、押しつけがましくなく、素直に好感が持てます。
いつ心折れても不思議ではない病魔との闘い。
それらに打ち勝ち、「笑い」として消化・公開できる作者の実力と根性。
漫画のギャグだけではなく、主人公=作者の生き様に笑顔をもらう読者も多いはず。
この点も、人気を支える要素の1つではないでしょうか。
まとめ『腸よ鼻よ』人気の四大要素!
これまでに考察&紹介したことをまとめますと、
・4コマとしてハイクオリティ
・パロディが秀逸
・類を見ない凄絶な闘病
・苦難を乗り越えて笑うことのできる主人公(作者)の人柄
これらが、『腸よ鼻よ』人気のメイン要素であると考えられます。
タイトル及び冒頭でも紹介した通り、この作品は「闘病ギャグエッセイ」という新たなジャンルを開拓した漫画です。
闘病だけど、本質はギャグ。笑いに飢えている方にぜひオススメしたい作品です。
また、潰瘍性大腸炎についても当然詳しく記載されているので、ご自分やご家族・知り合いが罹患した方は、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
症状や治療その他かなり詳細に描かれていますし、医療監修もなされています。
(※参考にする場合は各々の主治医に必ず相談してください)
一般的な「入院あるある」も豊富で、一部では入院患者の進〇ゼミとまで評されているそうです(笑)
少しでも興味を抱いた方は、書籍及び掲載サイトの「GANMA!」をチェックしてみては?
読めば明るい気分になれること間違いなしです!
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