”自称”悪女による異色の悪役令嬢ストーリー「歴史に残る悪女になるぞ」

「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」、通称はめふらのヒットに代表されるように、アニメや小説で一大人気ジャンルとなった悪役令嬢モノ。

現在も数多くの良作が登場していますが、当記事でコミカライズ版を取り上げる「歴史に残る悪女になるぞ」もそのうちのひとつです。

ですがこの作品、他の作品とはどこか毛色が違いなおかつそれが魅力につながっています。

当記事ではそんな作品の魅力をお伝えします。

悪女と思っているのは本人だけ? 主人公アリシアの魅力

この作品の魅力をまず挙げるとすれば、やはり主人公アリシアのキャラクターになります。

前世は普通の現代の女性でしたが事故で死亡して乙女ゲームの悪役令嬢キャラに転生…、とここまでは同ジャンルの他作品と変わらないのですがここからが違います。

悪役令嬢に生まれ変わろうものなら普通は悲嘆に暮れますが、前世で綺麗事ばかりのヒロインに全く共感できない現実主義者だった彼女はなんとそれを喜んでしまいます。

そしてそんなヒロインへの対抗意識から「歴史に残る悪女」を目指して幼少から剣術や学問等、全くおごることなく自分を磨く努力を続けていきます。

この時点ですでに違和感があるのですがそれからも後学のためと考えて大貴族でありながら危険な罪人の村であるロアナ村へ通ったり、貴族優遇の国のシステムを国王相手に真っ向から批判したりロアナ村の少年のジルの命を必死に救おうとする等、悪女のすることでは到底なく、むしろ口では悪女を騙りながらも実際はとても心根の優しく慈悲深い彼女の人柄が感じられます。

他にも魔法学園で道に迷ったり会談の後で帰り道がわからなくなったりする方向音痴だったり、王子キャラのデュークにアプローチを受けて恥じらったりと可愛らしい面も持っていて非常に魅力的です。

綺麗なだけでない現実的なストーリー

端正で可愛らしい絵柄もこの漫画の魅力のひとつですが、それに似合わずストーリーにおいても異質というか同じジャンルの他作品と一線を画しています。

アリシアや国王達の会談で国の進むべき道や他国との関係等についての深い政治的な議論が真剣になされたり、年齢に見合わない能力や貴族らしからぬ理念を持つ異端児とみなされたアリシアの扱いに困惑し思い悩む家族や友人達の姿が示す上流貴族社会のしがらみや学園での人間関係の煩わしさ、アリシア達貴族が恵まれた環境で生きられる一方でジルのように罪人の村のロアナ村で生まれたというだけで理不尽な暴力を受けて命さえ落としそうになったりする生まれの違いによる不公平という世界の現実を正面から描いています。

さらに、同じくロアナ村で死にかけたレベッカという女性を救うためにアリシアは全身の火傷を魔法で治すだけでなく、壊死して放置すれば命に関わる脚を

剣で情け容赦なく切断するという生々しいシーンも高い画力と演出力で妥協なく描かれています。

このように王子様キャラとのロマンスを中心に描かれる同ジャンルの他作品とは異なり、それだけに留まらない非常に論理的かつ現実的な面を持つ重厚なストーリーが展開されることもこの作品の大きな魅力のひとつです。

優しさや善意が地獄への道を造る? 「聖女」リズの異様なキャラクター

こんな調子で”悪女”への道をひた走るアリシアですが、そこに立ちはだかる(?)ライバルといえるキャラが「聖女」と呼ばれるゲーム本来のヒロインキャラであるリズです。

平民出身ながら並外れた魔力と全魔法属性への適正という信じがたい能力と、聖母のような無垢な優しさと善意を兼ね備え学園内でもアリシアの兄のひとり、アランを含めて男女問わず多くの生徒から信頼と愛情に留まらず「信奉」すら集めています。

しかしアリシアにも「お花畑」と揶揄されるようにあまりに浮世離れして世間知らずで、周囲の人間関係や他国との政治関係に対してあまりにも非現実的で根拠のない理想論ばかり語るために現実主義者のアリシアやジルをはじめ、アランの双子のヘンリ等は強い嫌悪感や違和感を覚えます。

ここからは単行本未収録の最近のエピソードとなりますが、アリシアが何者か(ある程度は見当は付きますが)の差し金で危機にさらされながらもその実力で乗り切ろうとするもそれを邪魔してさらなる危機に陥れることになるのですがその顛末があまりにもひどく愚かで読者に生理的嫌悪さえ抱かせてしまうものでした。

地獄への道は善意で造られるという表現がありますがそれを地で行っているのがリズであり、「善」の存在でありながら主人公の宿敵にふさわしいという異様なキャラクターと言えます。

悪役令嬢モノの異色作、意欲作として今後にも期待

原作の面白さを引き出すことが非常に難しくヒットさせるのは困難と言われるコミカライズ作品でありながら、画力や構成力、演出力等の漫画としての基本的な要素を非常に高いレベルで備えています。

ですがそれだけでなく、ここまで書いてきたように非常に素晴らしい面白さを持つこの作品、強く優しき「悪女」アリシアと愚かで害をなす「聖女」リズの対立という今までにない関係を軸とした斬新かつ痛快、重厚なストーリーが展開されるこの作品には今後のさらなる躍進を期待せずにはいられません。

はめふらに代表される一大人気ジャンルとなった悪役令嬢モノですが、その中でもひときわの異色作にして意欲作として今後ますます注目と人気を集めていくことを願っています。

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