貧困、孤独、セクシャリティー、そんな悩みを持つ人に薦めたい「花のうた」

守村大『花のうた』は、たった一人の肉親である祖母を亡くした15歳の少女・花野歌(ウタ)が単身、住み慣れた北海道から東京に出てきて生き抜く姿を描いた作品です。

こうして紹介すると女性向けまたは少女漫画のように見えますが、その中身はバイク好き、クルマ好き、酒やギャンブル、ケンカ、ホームレスのおじさん達などが盛りだくさんで登場する、非常にジャンル分けの難しい漫画です。

その分だけ、いろいろな年齢層や境遇にある人にもオススメできると思います。

孤高の少女、ウタの生い立ちと魅力

物語のはじまりから天涯孤独の身となるウタですが、悲劇に飲み込まれることなくいきなりアクティブなサバイバルに挑戦しはじめます。

男性漫画家の作品に出てくるヒロインとしてはいわゆるステレオタイプな「女の子らしさ」がとても少ない非常に個性的なキャラクターです。その心の真っすぐな強さと、純粋な子供らしい可愛らしさはとても魅力的です。

ウタは北海道の富良野で生まれてのびのびと育ち、動物たちと心を通わせることができる不思議な女の子です。彼女が生まれると同時に母親は命を落とし、ウタは祖母によって育てられますが、このお祖母ちゃんの教育方針がまた厳しくもカッコいいのです

しかしそのお祖母ちゃんがウタに与えた助言がのちに彼女を苦しめていたことがわかるのですが、厳しい人生を生き延びるためには必要な助言であったことも判ります。

ウタは現実世界ではなかなか出会えないような純真で強すぎる女の子ですが、彼女のキャラクターがご都合主義やわざとらしさを感じさせないのは、北海道の厳しい自然の中で育った生い立ちや、カッコ良すぎるお祖母ちゃんの理念といった、確固とした根拠があるおかげだと言えるでしょう。

1巻の初めを読んでウタがかわいいなと思ったら、ぜひ最後まで読んでみてくださいね

キャラの強すぎるおっさん達

東京に出てきてすぐチンピラに財布を奪われ、ピンチに陥ったウタが出会ったのはホームレス村のおっさん達。

(2022年現在の東京では現実のホームレスの人たちはほとんどの居場所を失ってしまいましたが)気のいい彼らは幼い小僧っ子のように見えるウタをホームレス村に受け入れ、介抱して寝場所と食料を与えます。

ここで登場するホームレスのおっさん達も非常に個性豊かで、どうしようもないロクデナシだけどどこかカワイイ感じで憎めなかったりします

飢えと疲れで倒れたウタを最初に発見したホームレスの「ムーミン」と、ウタを診察した自称・元医者の「ドクター」は重要なキャラとして先の物語に再登場します。ドクターはカッコいいし、ムーミンはやがてウタと行動を共にするようになりますが、どうしようもなくやさぐれてたロクデナシで情けない男なのにもかかわらず憎むことができないキャラクターです。

ウタと出会ったことでだんだんとカッコよくなっていくのですが、体形や風貌はほとんど変わらないのにものすごくカッコよく見えてくるんですね

男の……に限らず、人のカッコ良さとはどういうものかを、ウタと彼女を取り巻くおっさんや若者たちが熱く教えてくれる漫画です。

LGBTQと複雑すぎる恋愛展開

ネタバレになるので詳しくは書けませんが、ウタはこの先に様々なセクシャルマイノリティーの人々と出会うことになります。

訳あって男装を続けながら働く、ウタの勤め先であるラブホテルのオーナーや、訳あって女装を続ける〇〇の〇〇さん……その店で女装子として働くことになるウタの初めての親友、シバ。いわゆるLGBTQやセクシャルマイノリティーといったカテゴリで括るのは語弊があるのかな?と思えるくらい性別というものが邪魔っけになる展開が続きます。

この作品は単行本1巻が2000年なのですが、正直なところ発売当初に読んだ時にはあまりにもセンセーショナルに時代を先取りすぎている気がしましたが、読まれるにふさわしい時期が20年以上たった今ようやくやってきた感じがします。

LGBTQという言葉すらなかった時代の作品なので多少誤解を招く部分があるかもしれませんが、差別的な表現はほとんど見られませんので、セクシャルアンデンティティ—に悩む若い人たちにも、試しに読んでみてもらいたいなと思います。

ただ、一応青年誌掲載の漫画ですので、ウタを始めとした女性のハダカがたっくさん出てきますので、そういう表現が苦手な方はご注意くださいませね

ウタのこれからの人生と、彼女を取り巻くヒーロー達に花束を

ウタは不幸な生い立ち(彼女自身は全く不幸だと思っていないのですが)の影響か、心にいくつもの葛藤を抱えています。

物語冒頭でドクターが診察したときのその一片が垣間見られるのですが、だんだんとその理由が描かれていきます。幼いころから抱えていたその問題のため、ウタは恋愛関係においてものすごく大きな壁にぶつかったりするのですが、彼女は真正面からその壁に挑んでいきます。

ウタに恋してしまった子たちもやはり、みっともなかったり余りにも切なすぎる状況になってもウタとしっかり向き合います

そしてウタ自身は自分の恋心について、とんでもないやり方での解決を試みます。重ね重ね言いますがネタバレになってしまうので書けませんが、1巻の最初を読んでウタをちょっとでもかわいいなと思ったら、ぜひ最後までお読みになることをオススメしますね。

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